オトコノコの心を惹きつける21世紀のSFアニメ PSYCHO-PASS
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雑で長いまえがき
PSYCHO-PASS, というアニメをみた. このブログは映画ブログとしてやっていこうと思うなどといいながら, いきなりテレビシリーズのアニメの感想を書くことになるとは, 僕も思っていなかった.
しかしそんなことはどうでもいい((一応映画に限らず映像作品に関してはこのブログに感想を記述することにした. 細かいルールはあるが, 読者が気にしなければならないことはないだろう.)). 面白いものは面白い. 僕は面白いものを紹介したいと書いたし, その言葉に嘘はない.
完成度は高いだろう. 近未来の東京はかなりきれいに描画され, エンディングの東京の夜景は何度見ても惚れ惚れする. こんな未来都市に住みたいという幻想すら抱かせる. 車の動き, ヘリコプターの飛行シーンなどは(一部チープなところもあるが)かなりのクオリティで賞賛に値する. 完成された日本の”法治” –それはシビュラシステムという名の完璧なシステム – で, 多少ゆるいところはあるが管理社会の様相を呈し, 「ガタカ」の世界を彷彿とさせる. これほどの舞台に主人公と三年来のライバル, 葛藤し成長するヒロイン, さらにはキャラが濃すぎる同僚に加えて, レギュラーの登場人物は数は少ないが申し分はない. 名作になるべく舞台は整いすぎている.
しかしどうして, ここまで残忍なのか. 第一話で撃たれた瞬間に体が吹き飛んだのを見て面食らったのは私だけではあるまい((バイオハザードなら日本では発売できず, 北米版を買わないと見られないような演出だ.)). ハンマーで通行人をぶん殴る, 猟銃で頭を吹き飛ばす, 片腕を失う, そんなシーンがゴロゴロでてくる. アニメーションの皮をかぶっているが実写でやったら確実に R-15 指定間違い無し.
そしてサンプル数 2 なのだが, この作品は女性からの支持も悪くないらしい. しかし, 僕はオトコノコでしかない. ソ連を舞台にした映画なんか大好きだし, 管理, 監視されている社会のもとでレジスタンスとして革命を起こす人たちの物語なんかは大好物だ((念のため書いておくが, PSYCHO-PASS の筋書きはそうではない.)). オトコノコ的視点でその女性たちがこの作品を見ているとも思えないのだが, この作品には僕には見えていない魅力がまだまだたくさんあるということなのだろうか.
いきなり何も考えずに書きたいことを書いてしまった. 細かいことは抜きにして大雑把に語ろうじゃないか. 僕は批判したいわけでもここで性差を語りたいわけでもない. 僕なりに近未来の東京とシビュラシステムに, そしてその世界での 「常守朱」 という存在に少し迫りたくなっただけだ.
ネタバレ, 多少あるということを一応書いておく.
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Staff and Cast
総監督には本広克行(「踊る大捜査線」ほか), 監督には塩谷直義(こちらは僕が見たことある作品はなし……), 脚本には虚淵玄(「楽園追放」)を含め 3 人, キャラクター原案には天野明(漫画家, 「家庭教師ヒットマンREBORN!」)と, 具体的にどれくらいすごいのか僕には測れないけれど, そんな僕でさえ名前くらいはしているという豪華メンバー. フジテレビ「ノイタミナ」で, 東宝も噛んでいる製作委員会方式で作られたテレビシリーズのアニメーション, 全 22 話.
キャストにも疎くてあまりよくわかっていないのだけれど. お勉強も兼ねて書いておく((キャストはともかく, キャラクターの名前が本当に読めないの勘弁して欲しいんだよな.)). 公安局刑事課一係のメンバーは, 主人公でありながら「潜在犯」と呼ばれ, 社会的には行動を制限されている執行官「狡噛慎也(こうがみしんや)」役は関 智一. 「エヴァ」では鈴原トウジ役だったらしい(from Wikipedia). 「常守朱(つねもりあかね)」役は花澤香菜. この人の「ばかっ」はこの作品で唯一の萌えた箇所だった. 他には, 新米監視官の常守からすれば先輩監視官の宜野座伸元(ぎのざのぶちか)役は野島健児, 執行官には他にもベテランの征陸智己(まさおか ともみ, CV. 有本欽隆), やんちゃな縢秀星(かがり しゅうせい CV.石田彰), 冷静沈着な六合塚弥生(くにづか やよい CV.伊藤静), 情報操作や治療などを 1 手に引き受ける唐之杜志恩(からのもり しおん CV. 沢城みゆき)がいる. ほぼ毎回登場するのはこの辺のメンバー. そして公安局刑事課一係が, より正確には狡噛慎也が追っている容疑者「槙島聖護(まきしま しょうご)」役は櫻井孝宏だそうな.
潜在犯てなに, とかそういう話はまぁあとで.
ちなみに, OP は凛として時雨「abnormalize」, ED は EGOIST 「名前のない怪物」という音楽だけでもかなり濃いのだが, ストーリーは残念ながら(?)もっと濃い.
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第一話あらすじ
時は 22 世紀, だいたい今から100年後. 日本の社会は安全を担保されていた. 人の心の状態を「色相」や数値化することで定量的に計測することができるようになった. その数値を「犯罪係数」と呼び, 犯罪係数の高い人–現在の言葉で言うところの「犯罪者予備軍」と呼ばれる人, この世界では「潜在犯」と呼ばれる–を事前に発見, 隔離更生させることが可能になった社会. 街を歩いている人はシステムで「安全」だということが保証されている人, そんな時代だった.
このシステムは「シビュラシステム」と呼ばれ, なにも犯罪だけに適用されているわけではない. 試験の結果などからその人の適性を割り出し, 「シビュラ」がその人に合った職業を選んでくれる. シビュラの言いなりになればそれなりの「当たり前の幸せ」が手に入る, 誰しもがそう信じて疑わなかった.
しかし犯罪は起こる. だから警察も必要だ. この世界での警察の役割は, 稀に街に出没する犯罪係数の高い凶悪犯に対しその犯罪係数に合わせた処分を下すこと–気絶させるだけかもしれないし, 即時死刑になることもある–だった. 人を殺める権利を持つ公安局刑事課一係のメンバーも, 「シビュラシステム」を言い訳にして思考停止していた, すなわち自分が公安局の刑事としてやっていることの「意味を考える」ことさえ忘れていた……「常守朱」が刑事課一係に配属されるまでは.
常守朱は初めての現場でいきなり問題に直面した. 彼女の初めての現場は, 潜在犯に認定され, セラピーから逃亡した男が相手だった. 男は人質をとり, レイプするなどし, 犯罪係数は増加の一途を辿っていた.
常守は簡単なレクチャーを征陸智己から受けた. 犯罪係数を測り適切な「量刑」をその場で判断できる銃「ドミネーター」((銃に「支配者」とはまたエッジの聞いたネーミングだと思う.))の使い方, 刑事課一係の執行官は刑事でありながら潜在犯であり, 犯罪係数は高いこと. 監視官の判断ともあれば, 執行官を撃っても良いことなど.
レクチャーの後、一係は現場の捜索を始める。ほどなくして縢秀星が男を発見, 犯罪係数的にはまだパラライザー(気絶弾)だが, 人質女性が限界に近い. 縢は男に向かってパラライザーを発砲, 命中したが男が薬物を服用していたせいか気絶しない. 結局その場では取り押さえることも失敗し, そのまま人質を連れ逃亡を許してしまった.
別行動だった常守と征陸は男を発見するも, 人質がいてむやみに発砲はできない. 男はふたりに銃をおろすよう要請した. しかし男の視界の外には狡噛慎也がいた. ドミネーターはパラライザーでなく「イリミネーター(消滅させる兵器)」へと変貌し, 狡噛は発砲. 男はその場で死に, 人質の女性は爆発四散した男の血を浴びた.
実行犯は死んだが, しかし事態はこれでは収まらなかった. 常守が被害者の女性に公安の刑事で助けにきたと状況を説明するも, 被害者女性の犯罪係数も上がっていた. 犯罪係数は伝染する. 彼女の眼の前で繰り広げられた光景と男からの暴行は, 彼女を一時的には「潜在犯」以上の犯罪係数を記録させるのに十分だった. 恐怖, 混乱のあまり人質の女は逃げた. 居合わせた 3 人, 常守, 狡噛, 征陸は後を追った.
逃亡した女性は道端に置いてあった灯油のタンクにひっかかり転倒, 灯油を浴びた. そんな女性に対し狡噛はドミネーターをつきつけた. 何の犯罪もしていない女性に, 保護対象であるべき被害者を無情にもドミネーターは「危険人物」だと断定した. 常守は「保護対象だから撃つな」と言った. しかし狡噛は銃を降ろさなかった, そしてドミネーターは発射された……女性は無傷で狡噛が気絶した. 常守が狡噛を撃ったのだ. 後に女性も少し落ち着きを取り戻したが, 上司である監視官の宜野座伸元のドミネーターにより女性は気絶させられた.
この事件の後に常守監視官は報告書を書かされる羽目になるが, 善や悪という(相対的な)価値観でなくシビュラシステムが定めた基準値(絶対的指標)以上か以下かでしか動こうとしなかった, 刑事課一係にひとつ風穴があいた瞬間だった.
20 世紀の管理社会
最初に一冊読むなら何がいいでしょう?
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』
端的に申し上げよう, 君が「オトコノコ」なら見たほうが良い. 僕は救いようのない人間で, 最近のライトなオタク層からは確実に浮いているし, かといって中学時代や高校時代に中途半端に流れに乗れなかったせいで 0 年代の難しい顔したオタクの一味になれるわけでもない. でもオタクである以前に僕は「オトコノコ」ではあり, そしてこの作品は明らかに男性をターゲットに SF の世界の一端を見させることを意図して作られている. 管理していることの象徴として「ドミネーター」など, この作品には存分に「オトコノコ」が興奮する仕掛けが施されている. 加えて, 20 世紀の SF 作品や管理社会の作品を鑑賞した人間なら類似点, 決定的に違う点について思索を巡らせながら考えずにはいられないだろう.
しかし, この作品が見事なのは力を持っている側と持っていない側の対立, すなわち管理社会に抵抗する因子(レジスタンス)を描いたものではなく, 公安というむしろ管理する側, 力を持っている側を描いている点だ. 「ガタカ」で主人公はシステムの穴を抜けてエリート世界に紛れ込むことで自分の夢を叶えようとした. 「1984年」ではウィンストンとジュリアはビッグ・ブラザーの管理から抜け出す自由を夢見た. 「華氏451」 では「火の色は愉しかった」と述べていたはずのモンタークが, 後に少女と会ったことで現在の社会に不満を持つようになり, 国を追われる話だ. いずれも現在の管理社会に「反対」し, 「利用」したり「反抗」することで独自の理想を追う話だ.
詳細は常守朱について語ることで書いていこうと思う.
「常守朱」とはどのような存在なのか
役回り
常守朱, すべての鍵はこの女性をどのように捉えるかである. 言うまでもなく, アクションの主人公は狡噛だが, それ以外の場面の主人公は常守である. いくらキャストでは上から三番目に名を連ねていても, 主人公は彼女である.
最初, まるで彼女は初めてこの PSYCHO-PASS の世界に来た我々と同じような振る舞いをする. 彼女は初めて公安局での初めての現場で観客である我々と同じように右も左もわからないまま, 観客の代わりに世界に案内してくれるキャラクターだった. しかし, 観客が世界に馴染んできたころ, 彼女がその役割を終えるころ, 彼女の身に不幸が襲いかかる.
眼の前で友人が殺される.
そこを転機に始まるのは, 彼女の成長物語であり, それは狡噛とは形の違う意地と復讐だ.
プロフィール
彼女はエリートだ((こんなことを言うと「彼は数学の天才だ.」と大学の先生に推薦されたある数学者のエピソードを思い出す.)). 彼女はシビュラシステムにあらゆる職業に適性があると判断されたエリートである. その中で「自分以外に A 判定が出た人がいなかったから」という理由で公安局に入る彼女. 出世コースである.
彼女は悩んだ, 贅沢な悩みだと周りに言われるが「どの職業を選べばいいかわからない」, と. 彼女はエリートであるがゆえに悩まされた. 通常は適性判断はそんなにいくつもの職業選択をさせない. 実はこの事実は彼女がシビュラシステムの「枠外」にいたことを暗示している. 彼女はサイコパスが濁ったり犯罪係数が高いのとはまた違う形で, シビュラシステムの適用外に居たのだ. これは槙島聖護とは異なるシステムからの逸脱の仕方だ. そして一見何の問題もないが, これも実はシステムがまだ不完全であることを証左している. もしも完全に適性がわかるなら, 「あれもこれもよい」なんてことは起こりえないのだ.
彼女の適性
彼女の適性はまさしく後半でシビュラ自身により解説される. 彼女は上に挙げた 20 世紀の SF 作品群たちのレジスタンスのように体制を頭ごなしに否定し反抗することも, そうとは悟られないように利用することもしない. 彼女は冷静にシビュラはどのような役割を担うべきか, そして自分自身やこの世界の秩序, 槙島聖護を逮捕するために自分は何をするべきなのか, そして実現するためにシビュラと真っ向から「交渉」するのだ. これはぜひ後半を見てほしいが, 彼女の明晰さは計り知れない.
最後まで狡噛は理想を追い求めていた. 自分の感情に従い, その明晰な頭脳を使って, 男の意地で槙島を追った.
常守はリアリストだった. 彼女はきちんと現実を見ていた. 無茶をしない, なるべくリスクは避ける, しかし自分の意志は通す, 自分の信念は貫く. そうなる「適性」が彼女にはあった. それはシビュラも見抜いていただろうが, なにより槙島の手によって助長されたものでもあるだろう.
この作品を見る上で, 彼女をどのように捉えるのかはかなり人に依存するだろう. 彼女を最後まで「引き立て役のヒロイン」だと認識していたらそれはさすがにもう少し考えろと思うが, 主人公ではないという意見もあろう.
細かい話
細かいことを書いていく. シリーズ通して気になったことだ.
- 唇がすごい. 唇の状態でその人が恐怖を感じているのか, 怒りに震えているのかがわかる. 特に前半は唇のアップが多い.
- 車の動きがだいたいいい. 渋滞とかのシーンはさすがにやってられなかったのかもしれないけれど, テレビドラマの安っぽい合成を二度と見られなくなるような完成度.
- 東京の夜景. エンディングは通して何度も見入ってしまった.
- PSYCHO-PASS というタイトルに何故したのだろう. 反社会性パーソナリティ障害とはあまり関係ないので注意.
総評
とりあえず管理社会はいいよね, ということで見てね(謎).
テレビシリーズのアニメでなんでこんなことをやったのかよくわからない. 俺得だけどほかに誰が得するんだろう. 俺以外の人でだれかいるのか. まぁたくさんいたんだろうな. まだ二期と映画を見てないので, それもみたらまた何かを書こうと思う.
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